第二部 谷原博信編 120~169話(57K)

入力に使用した資料
底本の書名    全国昔話資料集成 32 東讃岐昔話集 香川
 底本の編集者名 武田 明 谷原博信

    責任編集 臼田甚五郎
         関 敬吾
         野村純一
         三谷栄一
    装幀   安野光雅
 
 底本の発行者  岩崎徹太
 底本の発行日  1979年10月5日
入力者名     松本濱一
校正者名     平松伝造
入力に関する注記
 文字コードにない文字は『大漢和辞典』(諸橋轍次著 大修館書店刊)の文字番号を付した。

登録日   2003年3月20日
      


一二〇 狐と人間
 ある山奥に白狐が住んでいた。 ある時、 男が山へ行て難儀していたところを、その白狐が助け
た。そして白狐が言うことには、
「わしがここにいるということをだれにも言うな」と言って別れた。
 その男はお殿さんにつかえていた。ところがそのお殿さんが夢を見ることには、山に白狐がいる
夢を見たそうな。

―203―

 そこでその白狐を狩り出したものにはいくらかの賞金を出すというお触れを出した。するとさき
の男は自分が出世するために狐を裏切って殿様に告げ口をした。殿様は、
「そんならその狐を狩り出して来い」ということで、家来たち大勢でその狩りに出かけ、ついにつ
かまえることができた。すると、その狐が、
「おれがこの山にいることはだれも知らんのにだれが言うたりゃ」と言うと、一人の家来がそれは
だれそれから聞いたと答えた。すると狐は、
「人間は利口(ルビ りこ)そうに言よっても恩を知らんやっちゃ」と言ったそうな。
 そして、その狐はつかまえられたそうな。                 (香西コスエ)

一二一 十二支の由来
 ある日、十二頭の会があることになった。その頃、猫も十二頭の中に入ろうと思っていたが、猫
は風邪を引いて寝ておったそうな。猫は、
「十二頭の会は今日だろが、遅れたらいかんから」言うと、鼠は狡者(ルビ こうしゃ)な奴やけに
の、
「今日ではないが、明日(ルビ あした)じゃが」ちゅうん(と言う)。鼠が猫の所へ行って。すると、
「明日とか、今日と聞いとんじゃが」

―204―

「おまえのように風邪引いて寝よるけに忘っせたんじゃわ。明日じゃわ。明日行こうぜ」言うて鼠
が言うたんじゃ。猫はぐあいが悪いけん、それを聞いてじっとしておった。明日になったら丈夫に
なるからと言うて猫がくっつおいで(くつろいで)寝たんじゃ。
 そいた(そうした)ところが、鼠が猫よりも早く行こうとして、そいで牛の所へ行て、
「おい、もう行こうぜ」ちゅうて(と言って)、それから牛の頭にとまって、その会に行た。そいた
ところが牛は一番に行たと思うていたら、鼠が先に飛びおりて先になった。そして、
――ね、うし、とら、う……
と鼠が一番になった。
 そいで、猫はあくる日になって、今日が十二頭の会だと思って鼠の所へ行って、
「おい行こうぜ」と言うてしたら、
「きのうであったが」と言った。すると猫は怒った。それで猫は十二の兄弟の中にはまらなかった
そうな。猫は、
「おどれ、憎いやっちゃ。わしを騙かして鼠が一番になりやがって」言うて、猫が怒って鼠と仇に
なって喰み殺しかけたそうな。                       (香西コスエ)

―205―

一二二 花の会
 まんじゅしゃげとぼけの花は、花が美しかったのでいつも自慢しておった。そしてある時花の会
があった。ところがその会には二人とも、
「おれはあとから行ても花の会には一番に入れてくれるわ」と言って、わざとあとから行たん。そ
うしたところ花の会が済んでいた。
 それでまんじゅしゃげとぼけの花は、花のうちに入っておらないという。だからまんじゅしゃげ
とぼけの花とは、仏さんへ供えられないんやそうな。             (香西コスエ)

一二三 塩売りの嬶
 雨蛙はもと塩売りの嫁はんであった。それでいつか喧嘩して別れていた。
 それから塩売りが塩を売りに行く時、雨が降ったら塩がととける(「ととける」に傍点)(溶ける)。
そこで雨蛙が鳴きかけたら、「降れ、降れ」と言うて鳴いているんやそうな。それで今でも蛙が鳴
くと、塩売りの嬶(ルビ かか)が泣いているという。             (香西コスエ)

―206―

一二四 兎と亀
 ある時、兎が亀に、
「世界でおまえほどのろいものはない」と言うと、
「のろい言うたって同じ動物じゃが」言うた。
「そんなら、むこうの小山のふもとまで走りごくせんか」ということで競走をすることになった。
すると亀はそろそろと這っていつもと変わらずに行く。一方兎はぴょんぴょん飛ぶけに早い。そこで、
「亀はおそいけに、どうせ晩まではかかるだろう」ということで、ここらでひと休みと言ってねぶ
るんやそうな。亀はそのねよる間にそば通って行たん。兎はまだ通らんと思うた。そうしたところ
日が暮れかかっても、まだ通らないがと思うと、すでに通ったあとであった。「これはねすぎた」
といって走って行たが、すでに亀は山のふもとに着いていた。
「おまえなんしょん。自慢して。さきんはねぶっとったではないか」
 こうして亀が勝った。                          (香西コスエ)

―207―

一二五 鳶と盗人
 ある所に、盗人をつかまえて唐丸籠(ルビ とうまるかご)の中に入れた。その盗人は落首になる
ようになっていた。多くの役人方がそれを引きずって来ると、その盗人は、
「ひとつ死ぬきわだから長い竿を持って来てくれ。芸をせるけん」と言った。すると役人は一つだ
け言うことをかなえてやるということで、その盗人は唐丸籠から出してやった。
 するとその盗人は鼠になって、長い幟竿の上へカタカタと登って行った。するとその盗人の家来
が鳶(ルビ とび)になって、
「ひーろた」と言ってくわえて飛んで行ってしもうた。そこにいた役人方はあっけにとられたそう
な。                                   (香西コスエ)

一二六 鼠の嫁入り
 鼠に一人の娘があった。鼠の親は、
「娘を嫁にやるなら一番えらい人にやる」と言って、

―208―

「えらい人は一番だれがえらかろうに」ちゅうて(と言って)。ほいたら(そしたら)お月さんがえら
いというのを聞いて、
「お月さんが一番えらいからお月さんにやる」言うて、お月さんの所へ行き、お月さんに言うこと
には、
「うちの娘とってくれ」言うてしたら、
「おれよりまだえらいもんがある」
「おまえよりえらい人というのはだれなら」言うてしたら、
「雲がえらい。雲はお月さんが出て光っていても、雲が出たら隠される。だから雲の方がお月さん
よりえらい」と言った。
 そこで今度は雲の所へ行き、雲に、
「うちの娘を嫁にとってくれ」言うてしたら、
「おれよりまだえらい人がある」
「あんたよりえらいのはだれなら」言うたら、
「風がえらい。風は雲があっても吹いて飛ばしてしまうから」と言った。するとそこで鼠は風の所
へ行って嫁にとってくれるようにと頼むと、
「おれがえらいと言いよるが、おれよりかまだえらいのがおる」

―209―

「おまえよりえらい者というのはだれなら」と言うてしたら、
「壁がえらい。壁は風が吹いてきても止めてしまうからの。吹き抜けられんけにの」と言うた。す
ると、
「ほんなら壁の嫁にやる」ちゅうて行てしたら、
「おれより、まだえらい者がある」と言うと、
「なにがえらいんか」とたずねたところ、
「おれよりえらい者は鼠がえらい。鼠は壁でもほぜって(ほじくって)倒壊するけにの」
「ほんなら、やっぱり鼠にやる」と言ってついに鼠にやることになったそうな。
                                      (香西コスエ)

一二七 てっちょかっちょ
 ある所に、母親がてつじとかつじという子供を連れて、畑へささぎ(ささげ)を植えに行た。母親
は畑の岸へ二人の子供を寝かしてささぎを植えていると、子供をとられておらんようになった。
なににとられたのかわからなくなった。母親は子供を一所懸命に捜したがいなかった。母親はきち
がいになって死んだ。
 それから、その子供は山の根や谷あいに、今でもささぎを植えるころになると、てっちょかっち

―210―

ょという鳥になって鳴いているそうな。
 その声をよく聞いていると、
  テッチョー カッチョー
と鳴いているそうな。                            (香西コスエ)

一二八 貧乏神と福の神
 ある時、弟の貧乏神と兄の福の神の兄弟があって、その二人はどこへ行ても泊めてもらえなかっ
たそうな。宿にの。
「おたし(私)は福の神と貧乏神やけに」と言うと、
「福の神なら泊まらしてやる。貧乏神は泊まらさない」と言って、貧乏神は泊めてくれなんだそう
な。そうしたところ一軒屋だけ親切な所があって、泊めてくれたそうな。その家の人は、
「家には貧乏神もありゃ、福の神もなけりゃいかん」と言い、
「そなに難儀しとるのなら泊まらしてあげる」と言って泊まらしてくれたそうな。こうして他の所
では福の神だけは泊めるけれども、貧乏神がいるから泊めないと断わったが、そこでは兄弟なら置
いてやるといって、そこに置いてくれた。

―211―

 そこで、福の神が言うことには、
「この貧乏神の弟をどこにも置いてくれないのに、こうして置いてくれるんだったら、もうこの家
にこれから貧乏せんだけのものをやろう」と言った。こうして、福の神はその家に福を与えて貧乏
をしないだけの家にした。そうしたところ、そこの家が大きな財産家になったそうな。
 福の神の裏は貧乏神で、貧乏神の裏は福の神であっての、その家はさしきらいはせえんという。
そこでいつまでもおってくれぇと言うたそうな。
 こうして、おとどい(兄弟)がそこの家にずっといることになった。だから、どこの家にも貧乏神
と盃をしていないと今にたとえていうそうな。                (香西コスエ)

一二九 ひばり
 限者(ルビ げんしゃ)の子は青だたみの上であっちすべり、こっちすべり。
 われらの子は麦わらの上で、つべつくちんちょろ、ちんちょろいうてひばりは鳴くそうな。
                                     (香西コスエ)

―212―

一三〇 火打石と下女
 ある大きな家に下女を置いてあった。その下女が元日の朝早よ起きてお祝い(雑煮)を炊かなけれ
ばならないのに、火打をうしねて(失って)なんぼうにも火がつけられぇで困っていた。そこで早く
から起きて長屋門を出て、「だれぞが火をくれんだろうか」と待っていた。
 そこで火打のありかを問うこともできず困っていたところ、東の方から火の玉が飛んで来よるん
やそうな。それを長屋門でじっと待っていたところ、その火の玉が近くへ来ると人間になってあら
われた。そこで下女は、
「おたし(私)火打をうしねて(昔は火打石で火をつけていた-話者の注)ないんじゃ。どうしよんと
思いよんじゃ」言うてしたら、
「そんなら、この火打ちをやる」言うてな、それをくれたそうな。下女はそれをすってお祝いを炊
いたそうな。その火の玉の人は福の神であったそうな。それから、その家は財産ができて長者になっ
たそうな。
 あとになってそこの旦那は下女からそのわけをきいた。すると、
「そら、ええことしてくれた」と言ってその下女は長い間そこの家に置いてくれたそうな。

―213―

 このように福の神は飛んで来るそうな。                   (香西コスエ)

一三一 天人女房
 昔、お爺さんが田んぼへ行とったそうな。すると田んぼの岸に柳の木が一本ある。その木に羽衣
をひっかけてあった。そこでお爺さんがその羽衣をとってもどった。そうしたところ、
「羽衣くれ。羽衣くれ」言うての、夜さが来たら来るそうな。毎晩そうしてくるのでお爺さんは、
「そんな大事なもんやったらやる」言うてその羽衣を返してやったところ、お礼にいいものをくれた。
 その女の人はその羽衣を着ないと、自分の国へ帰れなかったそうな。そこでそれを返してもらう
とそれを着て天へ往(ルビ い)んでしまった。                 (香西コスエ)

一三二 犬の聟と七つの宝
 ある所にお城があった。その城が敵にせめられ火事になったそうな。その城の殿さんが、
「だれでもかんまん、娘を助けてくれたら嫁にやる」と言うての。だけど、だれも助けに行くもの

―214―

がなかった。すると犬がの、山の奥とかにおったのが、その娘を助け連れてもどったん。
 殿さんはもうしようがない。だれにでもやるいうとるけんの。そこで自分のその姫を犬の嫁にやっ
たそうな。すると犬と娘二人は出かけていたそうな。そして犬と娘は山の奥へ逃げこもったそうな。
 そうしたところが、犬と娘との間に七人の子供が生まれたそうな。ところが、こんな玉が七つで
けたんやと。そこで七つでけたんが、ほうぼうへ飛んで行たそうな。ほうぼうでその玉から手に朝
顔のあざがあるのができるんやそうな。それがどこにできるのかわからんのやそうな。
 その子が飛んでの。その七つの宝からできた犬の子がさむらいになってそれぞれやり手になった
そうな。
 そこで、七人のさむらいはそれぞれ諸国漫遊に出かけたそうな。すると七人みんなが逢うた。す
ると、それぞれ手や足に朝顔の紋ができていることから、兄弟であることがわかったそうな。そし
て七人の兄弟がそろうたそうな。そして七人がそろってもとの所へ帰ったそうな。 (香西コスエ)

―215―

一三三 二人の兄弟
 讃岐の東の方に二人の兄弟がいたそうな。二人とも猟師であったそうな。弟は信心であったが、
兄はそうでなかった。ある日、弟は、
「今日はまあお寺へ参る。兄よ、お寺へ参らんか」
「おらお寺へ参るよりか山へ何ぞ撃ちに行く」と言って、お寺へ行かずに山へ行った。
 そこで、弟はお寺へ参った。すると山で鉄砲を撃つ声が聞こえた。弟は、
「あら、兄貴が何を撃ったか知らんけど、おらはお寺へ参っておる」と言いながらつまらんがと思
うていたそうな。そうしたところその弟がひょっとのどが渇きかけたそうな。
 それからお寺からもどって来て水を飲んだ。なんぼ飲んでものどが渇いてしかたがなかった。
 すると兄が帰って来た。
 その時は泉の水は飲みあげてしもての。それで弟は兄に、
「もう、おら五体が燃えてしかたがないから満濃の池へ連れて行てくれ」と言った。そこで兄は弟
を満濃の池へ連れて行た。ところが、満濃の池は九十九谷しかないのでそこにはおれなくなった。
弟は池へ行くと大蛇になってしまった。

―216―

「もうここにはおれんから大槌、小槌へ連れて行てくれ」と言うので、兄はまた弟を大槌、小槌の
島の間へ連れて行ったそうな。それで今も大槌、小槌島の間には大きなのがおるそうな。
 それから、日やけした時にはしとごみ(四斗樽)に酒を入れていて、それを飲んでしまっていると
雨を降らしてくれるそうな。                         (香西コスエ)

一三四 笠地蔵
 昔ある所にお爺さんがあった。そのお爺さんがある所で酒を飲んでもどっておった。すると地蔵
さんがあったそうな。その時ちょうど雨が降っていた。そのお地蔵さんが冷たそうに濡れていたの
で、そのお爺さんは、
「雨が降って濡れるんつらいから笠でもさしてみい」言うて、破れ笠だけど頭からさしかけてあげ
たそうな。そしてお爺さんはそのまま濡れて帰ったそうな。
 それからしばらくしてそのお爺さんは死んだそうな。そして地獄へ落ちてしまったそうな。する
とそのお地蔵さんが、
「おまえはまだ死んでくるんは早い。まえにおっぞさん(お地蔵さん)に笠を寄付したろうが」言う
た。するとそのお爺さんは、

―217―

「そなな覚えはない」って言うた。すると地獄の鬼が、
「貸した覚えがないんなら」言うて釜の中へ放り込まれたそうな。
 するとそのお地蔵さんが行っての、
「おまえはおれに笠をくれた。まだ死んでくるのは早いからもう一度出てけっこな所へ参れ」言う
て、お地蔵さんが手をつっこんで釜の中へ入っておったのを出したそうな。お爺さんはこうして助
けられた。そしておっぞさんの所へお礼に行った。そうしたところおっぞさんの片手がまっ黒になっ
てやきばた(やけど)していたそうな。                     (香西コスエ)

一三五 胴面さん
 阿波の殿さんと讃岐の山崎の殿さんがいたそうな。阿波の殿さんの下におる家来がやりてで、殿
さんはどなんしてもかなわんのやそうな。だけどその人は文字を知らんのやと。そこで阿波の殿さ
んが阿波の殿さんに刀と手紙とを持っておこしたそうな。殿さんはこの家来がおったら出世ができ
ない。これには知恵も何もかなわないので山崎の殿さんに、
「これをためし切りに切ってくれ」 と言って、 刀とその手紙をその家来自身に持たしておこした
ん。そうしたところ、その人は文字が読めないから、それを知らずに持って来たんやと。

―218―

 山崎の殿さんはその手紙を見て、こう言うてきとるが、ためし切りに切らないかんと思うて大事
にもてなした。その人がお酒を飲まんというのを無理に飲ましたそうな。
 そして往(ルビ い)にしに(帰りぎわに)その男は酒を飲んでいるので池の堤で寝よったんやと。
それを見て、山崎の殿さんは殺さないかんと思うて、
「おまえには罪も科(ルビ とが)もないけどもの、殿さんからおまえをためし切りにせと思うて来
とるが……」と言うて、
「おまえを切らないかんが、まあこらえてくれ」と言うて断りをしてしたら、その男は、
「文字の読めん者ぐらいつらい者はない。そいであったら覚悟する」ちゅうて、
「おれが死んだら文字のでけん者があったら、おれの所へ参ってこい。そしたら文字ができるよう
にしてやる」と言うたそうな。
 それで山の根で切りはなしたところ、胴が川端までとんで行っとる。そこを胴面さんといって今
も祀っている。首は天神さんの近くへ祀ってある。               (香西コスエ)

一三六 狼報恩
 昔、狼が夜さ家へ来て泣くんじゃそうな。その家の人はあんまり泣くからと思うて出て見たとこ

―219―

ろ、口いっぱい開けて泣いていたそうな。それで言うことには、
「この骨をのけてくれ」
 そして、よく見ると何を食べたのか知らないが、大きな骨がのどにたっていたそうな。それで口
いっぱい開けて泣いていたそうな。それをそのうちの人が手を口の中につっこんでのけたんじゃそ
うな。狼だったけどの、骨をのけてしたら狼は喜んで山の奥へ行ったそうな。
 それからしばらくしてその狼は山の大きなものをくわえて、その人の家へお礼に持って来たそうな。                                   (香西コスエ)

一三七 瘤取り爺さん
 むかし二人の爺さんがいた。その一人の爺さんに瘤(ルビ こぶ)ができだんだん大きくなる。そ
の瘤を鬼の所へ行ったところ切られた。そしてそのたん瘤がのいた。するとかたっちゃのお爺さん
が、「おれも行ってのけてもらう」と言って鬼の所へ行く。すると隣の爺さんのたん瘤をつけられ
て二つになったそうな。                           (香西コスエ)

―220―

一三八 肉付面
 嫁さんは信心でお婆さんは邪慳であった。お婆さんは嫁さんにお寺へ参らさなかった。お婆さん
は嫁さんがどなん言うてもお寺へ参らなかった。
 ところが、ある夜さ嫁さんがお寺へ参ったあとで、
「今夜らおどしてやる」と言って面をかぶって、嫁さんがお寺からもどる道の竹藪のある所でその
面をかぶって待っていた。そして嫁さんがもどって来よる所へ、
「呑もうか、噛もうか」と出てしたら、
「呑めばのめ。噛めばかめ。金剛のしんにはぶはたちまい(信仰心のあるものにはたちうちできない
の意、「はぶ」は歯ぐき)」と嫁さんが言って、そこを通り抜けて家へ帰ったところ、お婆さんはいなかった。そこで、
「あら、あしこにおったんはうちのお婆さんに違いない」と言うてその嫁さん見に行ったところ、お婆さんは面が取れいで、そこでうろうろしていた。
 そこでもどって嫁が、
「お婆さん、親に言うんは無理やけど悪かったあと言うて断りしてくれえ」言うて嫁が面を取って

―221―

したら、顔の肉が付いたなり面が取れて、それからもうお婆さんはお寺へ参るようになった。
                                      (香西コスエ)

一三九 へやの起こり
 昔、婆さんが息子に嫁さんをもらってやった。ところがその嫁さんはよう働いていたが、だんだん体が弱ってきた。お婆さんは、
「どうしたんか」とたずねると、
「おならをがまんしとるんや」と言うたので、
「そんなの我慢せんでええでないか、心配せんでええが」と言うたので、嫁さんは今までたまっとったのを一度に出したところ、お婆さんは天井の裏まで吹きあげられたそうな。   (香西コスエ)

一四〇 お伊勢参り
 山の中の人が五人お伊勢参りをしておった。どんどん行って阿波へ来たところ、そこの宿屋で、「ケツを剥(ルビ む)くか」って言うたところ、

―222―

「ケツを剥くったって、ケツやおらやよう剥かん」と言うた。そしてみんなが座ってよう剥かずに黙って待っておった。 そうしたところが芋を出して来た。 芋の洗うたのを剥いたらするっと剥ける。そしたら、
「これならこれと早よ言うてくれたらええ」
 それからどんどん向こうへ行ってまた宿屋に泊った。するとその宿屋の人が、
「褌のけるか」
「褌のける言うたって、赤い褌しとる」
「おらは黒いんじゃ」言うておった。そして五人が相談して、
「褌のけ言うからのけようぜ」ちゅうて褌をのけて長うに引っぱっておった。そしたらお膳を持って来た下女が笑うて、
「褌のけというのはこれでないんじゃ。蟹の褌をのけて食べることを言ったのや」と言った。それを聞きちがえて、褌をのけてしまったそうな。こうしてそこでおいしい蟹を食べた。
 それから今度向こうへ行き別の宿についた。朝起きて見ると塩と歯ブラシとコップとを持って来た。するとみんなはこれはどうするのかと思い、歯をみがいてコップに塩を入れて飲んだ。腹がかたくなるまでみんなが飲んだ。
 それからお膳を持って来たのに素〔メン〕(#「メン」は文字番号47827)(ルビ そうめん)を入れて来た。その下女が言うことには、

―223―

「これはお客さんコップにはお茶を入れて飲むんじゃないんじゃ。塩で歯をみがいて口をゆすぐんじゃ」と言った。
 ところが素〔メン〕(#「メン」は文字番号47827)が出て来たが、だれも素〔メン〕(#「メン」は文字番号47827)をどのようにして食べるのかを知らなかった。その中の一人が「ことおもしろい、ちとてごて(少しからかって)やれ」と思うて、
「これはいっぺん首をぐるりっとまわして、それから醤油につけて食べるん」
 そうしたところがみんなそうやって食べる。女ごがほかへ行っている間に首に巻いて食べようとしたが、よう素〔メン〕(#「メン」は文字番号47827)を食べずに終った。これが首巻き素〔メン〕(#「メン」は文字番号47827)であった。
 それから饅頭(ルビ まんじゅう)が出た。その饅頭は投げ饅頭と言った。そこで口の中へ放り込むんだけど、上へ放りあげてから食べようとしたが、口に入らず外へ出てしまう。そこで五人はとうど懲りてしまった。それから伊勢へは二度と参るところでないといって懲りて往(ルビ い)んだそうな。
                                      (香西コスエ)

一四一 てえらんの話
 昔、お母さんと一人の子供がおったと。その子供の名前はてえらんと言う名前であったと。で、小さい時からお母さんは非常にそのてえらんを可愛いがって大きゅうしていたと。
 まあ、ある時そのてえらんを一人おいておむつを洗いに外い出ておったと。そうすると自分の家

―224―

の方で火事だと言うので、お母さんはおむつもそこそこに家へ帰って来たと。そしたら、自分の家が焼けておると。で、てえらんのことが非常に気になったので、もうすぐ家の中へ、人々がとめるのもかまわないで飛び込んで行ったと。で、あちらこちら、
「てえらん、てえらん」と言って捜しながら、やっと捜し求めて、てえらんは無事に連れ出したが、まあ、お母さんの顔は焼けただれ、髪は焼けてしまったと。
 それから、てえらんが大きゅうなって学校へ行くようになって来たと。そうすると、学校へ行たら他の友達からぴんご(つまはじき)にせられると。
「お前のお母(ルビ か)ん見てみい、頭の髪はじじ髪じゃないか。顔はひきばって化物みたいな顔しとるでないか」と言うことで、非常にてえらんは友達からぴんご(「ぴんご」に傍点)にされると。それがくやしゅうてくやしゅうてしょうがないんだが、まあある所まではこらえておったと。で、家へ帰ってお母さんのおらない時にしくしくとそれがつらさに泣いておったと。
 で、お母さんがふとてえらんが泣いておるのを見て、
「どうしたんな、てえらん、おまえは何か隅へ行くとしくしく泣いとるではないか」と言った時にてえらんは、
「実はお母さん、こうこう言うわけなんだ」と言うそのわけは、
「学校へ行くとな、おまえのお母ん見てみ、化物じゃないか言うてなぶられることが非常につらい

―225―

んだ」と言うことをお母さんも聞いて胸を打たれて、一応話すまいかと思うとったんやけども、そこまでてえらんがいじめられるんであったら、一応てえらんにこの髪のちぢれたそのわけを話そうと言うことで、
「実はな、てえらん、お母んがこのような顔になったのも、髪がちぢれたのも実はおまえが赤ん坊の時おむつを洗いに行とった時、家が焼けたんだと。それでわしがおまえを助けようと思うて飛び込んだんだと。その時に顔や髪が焼けてしまってこんなお化けのような顔になっとっただよ」と、言うことをてえらんは聞いて、また非常に胸を打たれて、
「そのようなわけでなっておるんか」と。
「よしそんなら友達がどう言おうと、お母さんに報いるために一所懸命に勉強しよう」と言うことで、それから人からどう言われても、自分を助けてくれたお母さんだと言うことで、一所懸命勉強した。で、てえらんがだんだん大きくなったと。
 お母さんが亡くなったので、お母さんの形を木に刻んで木像にしたと。そして仏前へ置いて、そして毎朝、毎晩もう生きた人間に言うように朝は、「おはようございます」晩は、「今日もお母さん元気で働かしてくれた」と言うように祈っておったと。
 それからてえらんが大きくなってお嫁さんをもろうたと。そのお嫁さんはてえらんのその木像を拝んでおることが何のことか意味がわからないと。おかしなうちの主人だと思ったと。仏前へ置い

―226―

てあるおかしいかっこうをした木を毎朝毎晩生きた人間に言うように物を言うと。不思議だと思ってある日、てえらんが留守の間にその仏前の仏像をとって目を針でさして見たと。
「あんな木に物を言よるんだから生きとるはずがない」と言ってさして見たところが、そこから血が流れてきたと。でもう、お嫁さんはびっくり仰天して、「これは不思議な」と言うことでそこへ仏さんの前でひれふしとったと。そこへてえらんが帰って来て、その有様を見て、何か第六感が働いて、「お母さんに何か変わったことがあったんだろう」と思って行って、
「お母さん帰りました」と言うて、目を見ると目から血が出とると。でそれに対してお嫁さんは、「実は、私はあなたが毎日毎日あの木を拝んでおる。人間に物を言うように言うておるのが不思議なので、ついでき心で目に針をさして見ました。そしたら、あの木像は生きておった。本当に悪いことをしました」と心から改心したと。その後、お嫁さんもその木像に対して生きた人間に、姑(ルビ しゅうと)さんに言うように何かするんでも、まあ話してその後幸福に暮らしたと。
                          (直島町本村 三宅勝太郎〔六十八歳〕)

一四二 短い話
 昔々な、お爺さんとお婆さんとおって、隣でおいしそうなこんこ(香の物)をもろうて来たんだ。

―227―

それを仲がええお爺さんとお婆さんだから、両方からくわえて引っぱった。だら、両方の歯が抜けてしもうたんや。これがオハナシ。そいでおしまい。               (三宅勝太郎)

一四三 長い話
 長い長い長浜があってな、で、お天道さんから長い長い長い長い褌が落ちて来たとさ。(これ長かろが!)                                  (三宅勝太郎)
  この短い話、長い話は話をしたくない時の口ぐせになっていた。


一四四 猫又退治
 昔々、お爺さんとお婆様と娘三人おった。山に中で静かに暮らしておった。ところが、その部落では毎年一人ずつ娘を牲(ルビ いけにえ)に神様へ祀らなかったら野荒らしをせられる、いう一つの事実があった。で、お爺さんの所には三人おったところを二人まで牲にしてしまった。あと、一人残る娘を今年順番が来とんで、牲に出さにゃいかんということで、お爺さんお婆さんこれを牲にしたら後誰れもおらん、二人きりになるちゅうんで非常に悲しんで、三人寄って泣き悲しんでおった。

―228―

 そこい、一人のお侍が通りかかって、でその光景を見て、
「どうしたんや。おまえたち三人とも泣き悲しんどるが」言うこというと、お爺さんが、
「実はこういうことなんだ。この部落では毎年一人ずつ娘の牲を出さなかったら野荒らしして畑の物が一つもでけない」言うことをお爺さんが話すると、静かに聞いておった侍はただ首をうなずけるだけで、
「おう、そうか。しかしそんな馬鹿なことないだろう。神さんに人間を持って行くちゅうようなことはない。それは確かに何かのやな、妖怪だ。化物がそうしとんだろう。神様がしとんじゃない。よし、そんならわしがその化物を見つけてやる」言うことで、娘に代って娘の着物を着て、で、ちゃんと箱に入って、で、夕方が来たので、村の人が来たから、
「さあ、今からお前とこの娘を牲に気の毒じゃけど連れて行くぞ」と。まあ、娘は隠しとって、で、「中へ、ちゃんとうちの娘は入れとるから」言うので、かたいで社の所へ持って行って、社の前へ置くと、みな恐ろしいからそうそうに逃げて帰ってしまった。
 しばらくすると、何かこう足音がする。
「ああ、やっぱり何か妖怪が来とるな」と言うんで、じっと耳をすまして聞いておると、だんだんと足音が近うなって来て、で箱のふたをそうと開けて、じっと見るとそれは猫のお化けだった。猫又だ。言うことで、その侍の頭には猫又だったらこれはもう山で松やにを体にぬっては砂をぬり、

―229―

砂をぬっては、松やにをしとるから、刀が通らないんだそうですな。ところが、じっと考えていると、体はどこを切っても切れん。もうこののぞ(のど)をさすと、のぞはちょうどこうやっても(寝ころぶまね)松やにもつかず、土もつかないから、
「よし、そんならわかった」とまあ戦法を考えて、じいっと猫又がふたを開けるのを待っとって、刀を持ってのぞ笛をぶすーと突きさした。
 そうしら、娘だと思うたのが、とんでもないもんが来たので猫又はびっくりして、ギャ―ちゅう声出して逃げて帰った。
 それで侍は妖怪の正体は猫又だというので、夜が開けてから村の衆に言(ルビ ゆ)って、「じっとその、血が落っとるから、その血の跡を伝うて行け」と言うことで、村人は恐る恐る伝うて行て見ると、大きなほら穴の中に血が消えとったと。で、そこい入って見ると大きな猫又がですな、そこで倒れておったと。
 言うんで、それをまあ見せしめじゃと言うので、四つ足を結(ルビ ゆわ)えて二人が今度は娘の反対にかたいので、
  なべかま売っても嬶売るな
  なべかま売っても嬶売るな
 (一つの喜びの意味で、嬶はそれぐらい大事なと言うことを言っている。大事な娘をとられた敵(ルビ かたき)をうった

―230―

という喜び)
 そういって手踊りしながら帰って来たぁと。で、その後娘をあげんでも農作物を荒らすものもなくなったと。                                 (三宅勝太郎)

一四五 日本一の屁ふり爺
 昔、欲の深いお爺さんと、人のいいお爺さんとまあ二人がおって、ある時、心のいいお爺さんがお城のまわりを、
「日本一の屁ふり爺、日本一の屁ふり爺」と言うて廻っとったと。それを聞いとったお殿さんが、「なかなか変わったお爺さんがおるじゃないか。よし、まあわしの所い来て屁をふらしてみい」と言うて、その爺さんを呼んだと。で、そのお爺さんは殿さんの所い行くんだから装束をきちんと整えて、そしてそれからお殿さんの前へ出て頭を下げておったら、
「爺(ルビ じい)、頭をあげ。一つわしの前で日本一の屁をふってみい」言うて言われたので、
「ではお殿さんお許しを願います」言うて、
  錦さらさらお殿のお前でスッポロポンのポン
と言う。まあ、屁をふったんですな。

―231―

  錦さらさらお殿のお前でスッポロポンのポン
と屁をふったと。だら、
「なかなかお前の屁は見事な」と言うことで非常におほめにあずかったと。で、まあご褒美をようけもろうて帰って来たと。
 だら、欲の深い爺さんがそれを聞いて、またお城のまわりで、
「日本一の屁ふり爺」と言うてまわっておったら、それを聞きつけてお殿さんが、
「また屁ふるおもしろい爺がまいよるでないか。いっぺん呼んでみい」と言うんで、まあその爺を呼んだと。
「で、お前、日本一の屁ふり爺言うが、わしの前でひとつ屁ふってみい」言うたとこが、その欲の深い爺さんがちゃんともう今までのことを聞いとるから、
  錦さらさらお殿のお前でスッポロポンのポン
 そこまではよかったんやけど、あんまり気ばったためにですな、まあうんこ(「うんこ」に傍点)がお殿さんの前で出たと。いうんで、
「無礼者」言うんで、尻を刀で切られたと。そいでもう、ほうほうの体(ルビ てい)で家に帰って来て、
「婆々よ、綿くれ、婆々よ、綿くれ」と。お婆さんは褒美もろうて来ると思うておったところが、「綿くれ、綿くれ」言うから、

―232―

「どうしたんなら、お爺さん」言うたら、
「いや、実はな、あんまり気ばってお殿さんの前で ふったところが実が出たんじゃ」と、言うことでまあお婆さんから綿もろて手当したあと。                  (三宅勝太郎)

一四六 人買い舟
 安寿姫と厨子王丸と二人がおって、 非常にいい家に住んでおって、 何不自由なく暮しておったと。ところが、お父さんが九州の方へ流されたと。
 その後を追うてお母さんと安寿と厨子王丸と三人でお父さん所へたずねて行きよったと。
ところが、途中でお母さんと二人の子供とが離れ離れにせられてしまう。で、その後お母さんの消息もわからないし、安寿と厨子王は人買い舟にさらわれて、そこで非常にむごい仕打をされた。
二人が相談して逃げようとしとると、焼いた火箸で印を入れられると。そのような、まあむごい仕打をされておったと。ところが、それが、そこを抜け出して、厨子王丸が大きくなってお母さんの行方を尋(ルビ たん)ねると言うまあ、ええ地位になったと。で、お母さんをたずねて、お母さんが佐渡におるということで佐渡へ渡ってそこらのえらい人に頼んでお母さんをたずねて見た。あちらこちらたずねて見ると一人の年寄ったお婆さんが、

―233―

  厨子王可愛いや ほほらほい
  安寿可愛いや ほほらほい
言う雀追いの歌を歌うてな、 棒を持って雀を追うておったと。 何んか自分の名前を言よる。厨子王、安寿ということは自分らのことだ。どうもあのお婆さんがお母さんに違いないと言って、行ってよって見たけれども、相手は盲目だと。で、片一方も大きになっておるということでわからないと。そこで、厨子王は昔の話を、
「実はこうこうで別れた厨子王だ」と言うことでお母さんと対面してですな、その後お母さんを引き取って幸福に暮らしたと。                           (三宅勝太郎)
 
一四七 桃の子太郎
 お爺さんとお婆さんとがの、子供がのうて寂しかったんやと。
 そしたらお爺さんは山へ柴刈りに行く。お婆さんは川へ洗濯に行ったら、川の奥からポンポコリン、ポンポコリンと桃が流れてくるんじゃと。
 そいだら、お婆さんが、
「まあ、これは大けな桃が流れて来たけに」と思うて拾うて帰って、お爺さんと半分に分けて食べ

―234―

ようと思うて、ほいで、まな板の上へのせてしたら、ポンと桃が二つに割れて、中から可愛いい赤ちゃんが生まれたんじゃと。
 そいで、その子がの、大きいなって力持ちになったんじゃと。ある時その桃太郎がの、お爺さんやお婆さんにの、
「鬼征伐に行くけに、暇くれ」 言うたら、お爺さんとお婆さんは、それならということで、黍団子をこっさえて(こしらえて)、ほいで、お弁当にしてやってしたら喜んで行っきょったんやと。
 そしたら、きじと猿と犬とが出て来て、
「桃太郎さん、桃太郎さん、あの、どこへおこしですか」言うたら、
「わしは、あのう、鬼が島へ鬼征伐に行っきょるん」
「ほんだら、家来にして連れて行てくれぇ」言うけん、桃太郎は連れて行たん。
 そいで、鬼が島へ行たところが、その鬼が島は鉄の門がしまっとるけになかなか中へ入れなんだんじゃと。そいでみんなで力をあわして開けて中へ入ったんやと。すると、猿はこうやって掻いてからにかきむしるし、それからきじはつつく。犬はかんつくしして(噛みついて)から、桃太郎さんとみんなしてせめてしたら、とうとうしまいに鬼が降参して、
「こらえてくれ、宝物やるからこらえてくれ」
「そしたらこらえる」ちゅうて、そいて、ようけの宝物もろうたそうな。そいて、その宝物を載せ

―235―

た車を犬が引く、きじが綱を引く、猿はあと押す、桃太郎さんは、こうやって旗を立てて、宝物を積んでもどったら、お爺さんやお婆さんが喜んでの。そのお爺さんとお婆さんは金持ちになったんじゃと。                               (香川町東谷 村瀬ナミ)

一四八 おば捨て山の話
 おば捨て山言うて、昔は、七十一歳こしたら、家に年寄を置けんきまりであったんじゃって。そやけに、もう年寄は七十が来たら兄弟同士が、畚(ルビ ふご)でかいて(担いで)捨てに行くんやて。そやけに、もう年寄は七十が来たら兄弟同士が、ふごでかいて捨てに行くんやて。
 まあ、あるお爺さんはもう行かんと言うてあばれて、あばれてそれこそジタバタするんで、もうむりやりにふごに乗せて行たん。
 お婆さんはご法聞いとるお婆さんだったけに覚悟して、連れて行てくれちゅうて、ふごに乗って行っきょったんと。その、山へ行くあいさに(途すがら)お婆さんは、こうやって柴折りつけ、折りつけしていたそうな。すると、おとどい(兄弟)がかいていて、
「おかはん、おかはん、まだこやって行てももどる意志があってそうやって道しるべするんかい」ってしたら、

―236―

「そうではないけどの、おかあはんはもう死ぬるんじゃけど、おまえたちが道に迷うて、もどるんが困るけに、この柴の葉を折っとんや。折ってあるけに、その柴の方へもどれよ」って言うてしたら、おとどいがいていたけど、
「これはもったいない。こなな恩(ルビ ぼん)ある親を捨ててはもったいない」と言うて、またかいていてかいてもどって、縁の下へ隠してあったって。
 そしたら、お上から、
「灰で縄をのうて来い」と言う御触れがあったん。そんなこと年寄でなかったらわからんことやから、息子がお婆さんに聞いたんやって、
「お婆さん、灰で縄をのうて来いというんじゃ。どうしたらよかろうに」そいでしたら、
「それはやすいこっちゃが」
「どうやったら、灰で縄がなえるんな」って、
「縄を焼いて、そのまま持って行たら灰で縄のうとんがでけるが」ったら、その息子は言われたとおりにして、それを殿さんの所へ持って行ったんやと。そいて、自分は捨てないかんお婆さんから教えてもろうた言わずに持って行たんやと。ほいでしたら殿さんが、
「おまえ、それだれから聞いたら」言うたら困って、
「うちの年寄から聞いた」言うてしたら、殿さんは感心して、

―237―

「これは、年寄は粗末にならん」と言うて、それから年寄を大切にしたんじゃって。
                                       (村瀬ナミ)

一四九 雲根鈍の話
 昔、ある男があったんやと。その男が若い時に夫婦になっとったん、その聟さんが桶屋であったんや。ほいで、一緒にいたけど、まあ縁がなかったんか別れて、ほいで、その女の人は今度ええ所へ嫁さんにもらわれて行とったんやと。
そんだらまあ、その聟さんが知らずにそこへ、
「輪(ルビ わ)替えするんないかいの」言うて行てしたら、
「ほんだら、これ輪替えかけてくれ」言うて頼んだん。嫁さんの方はその男が自分のまえの聟さんや言うことを知っとったん。ほいで、そのかけ賃をの、金であげようとしたら、
「おたしは米を買うんやけに、米をいただきます」と言うてしたら、その嫁さんが、
「かわいそうにの。てまいに主人であったのにやっぱり落ちぶれて桶屋しよる」と言うて、お金の上へお米を入れてあげたんやと。そして、
「この枡はいらんけに枡ごと持って帰りまいよ」言うてあげてしたら、その男はお金が入っとるの

―238―

知らんけに、そのまた枡ごてある所へ行って売ったんじゃて。
 せっかくお金をもらっとるのに売ってしたら、その金がのうなってしもたんやと。やっぱりぶに(運)のない人はそういうもんじゃ。さずけてくれたもんでも、ぶにがなかったら、また向こうへゆずって自分は一生貧乏で終ったという。
 しゃけに、何というても人間は、運、婚、鈍と言うて、運と根と鈍なところがなくてはならんのやと。あんまり人間ははしってしもうとってもいかん。鈍なところがなけりゃいかんと。
 また、運がなければどんなにバタバタしても出世はしないそうな。運が向いてくるとふきつける如く人間は出世するという。                           (村瀬ナミ)

一五〇 継子いじめ
 昔、おかあさんが継親であった。ある時その継子が憎くて「風呂に入れ」と言ってむりやりに入れて、そのあとからふたをしてしたからドンドコ、ドンドコ焚いていり殺してしもうた。それがあとになってわかって、今度はその親が罪をきてしまった。継親は「自分は悪かった。自分はこういうことをして」と言って懺悔(ルビ ざんげ)して良いお母さんになったという。(要旨)
                                       (村瀬ナミ)

―239―

一五一 かっちょ
 昔、その、おかあさんが赤ん坊連れて、夏のことじゃけにささぎをちぎりに行とってしたら、あの、鷹が来てからに赤ん坊つかんで飛んだんやと。
 そんだら、おかあさんが、その子の名はかつちゅう名であったから、
「かつよ、かつよ」言うて、もう呼んで呼んでしたら、もうしまいには気が狂うてしもうたん。ほいでそのお母さんはしまいに鳥になってしもうたんやと。あんまり子供が恋しいけに鳥に生まれてしもうたんやと。
 それから、今でも夏が来たら、
「かっちょ、かっちょ」と言うて鳴っきょるそうな。
 だから、人間で子供が可愛いないもんはどこっちゃにおらんちゅう話。      (村瀬ナミ)

一五二 おおつごもりの餅
 昔、おおつごもりに餅を搗きょってしたら、その子が無理言うて、無理言うてしたら、その親が

―240―

子に、
「くそ、無理言うなら、もう、あの、鬼ばばにやるぞ」言うてしたら、その晩にその戸のすきまから、
「いらん子なら、おれにくれ」ってから大けな手を突き出したという。突き出したけど子供をやりはせなんだ。
 それからは、おおつごもりには餅を搗かんことにしたそうな。           (村瀬ナミ)

一五三 浦島太郎
 それは、海のはたで子供がようけ(大勢)寄って亀をつかまえていじめよった。そしたら、そこで浦島太郎が釣りをしよったんやと。 その浦島太郎は子供が亀をいじめよるけにかわいそうにと思って、その、
「お金をやるけに、その亀をくれ」ったら、
「おお、お金をくれゃやるわ」言うけに浦島太郎は子供にお金をやったそうな。そいで、その亀をもらって海へ逃がしてやった。その時、
「二度とは子供の手にかかるなよ」と言うて海い(へ)放してやった。

―241―

 それから、四、五日して浦島太郎が海ばたでまた釣りをしよったら大きな亀が出て来て、
「浦島さん、浦島さん、こないだはありがとう。その恩返しに私が竜宮へご案内するけにおたしの背中に乗ってください」と言うので乗ってしたら、だんだんと海の底へ行くん。そいで、浦島さん喜んで行っきょったら、その、向こうにきれいな門のある竜宮へ着いたんや。
 そいだらもう、乙姫さんがおるやら、まあ鯛や平目が、
「浦島さんが来てくれた」ちゅうて、喜んでもてなしをしてくれたん。ほんだら、もう家い帰るのもわっせ(忘れ)て遊びよったんやと。浦島さんはひょっと遊びが飽きてから、
「もうわたし長いことお世話になったから帰ります」言うてしたら、
「まあ、それはおなごり惜し」と言うて玉手箱を出して、
「どうぞ家へ帰っても、どんなことがあってもこの箱は開けてはいかんから開けんように」と言うてきれいな箱をくれて、また海の底から亀に乗ってだんだん海の上へあがって来たそうな。
 ほいで、もどって来たら、もう何百年もなっとるんやと。そうやけにもう自分のおった家もなけりゃ知ったものもなしの、親もなんちゃない。もう、ひょっとさみしになってその浦島さんが箱を開けなと言うたことを忘れて、箱を開けたら煙が出て、きれいな人であったんが、にわかに白髪(ルビ しらが)のお爺さんになってしもうたという。                    (村瀬ナミ)

―242―

一五四 子育て幽霊
 昔、女の人が大けなおなかしてお産するようになっていたんが、子供をよう生まんずく死んでしもうたん。そんな時、男の人の下駄をお尻の下へ敷いて焼かずに土葬にして埋めよったん。
 そんだら中で子供が生まれていたんやそうな。 ところが、 その死んだおかあさんが幽霊になって、毎晩毎晩十二時頃が来たら色の青ざめた顔で、髪おんぼろにした人が、飴屋へ飴買いに来るんやて。ほいだら、これは不思議なの。この人は毎夜毎晩飴買いに来る。そいで、なんぼ飴買うかというたら八文持って来るん。毎晩八文持って来るんで、ほんであんまり不思議なけにと思うてその女の人の後つけて行っきょったら、墓場の所へ行ったそうな。ところが、そこへ行くとその女の人の姿が消(ルビ け)ぇてるん。
ほいで、不思議なと思うて穴をひっくりがえしたら中に子供が生まれとったんやと。その子供はおかあさんが買うて来た飴を食べて生きとったという。
ほいで、これはというんでまた連れてもどって大きんしたぁという。
 女の一念というもんはどこまでも通じるもんじゃという話。           (村瀬ナミ)

―243―

一五五 猫又の話
 昔、お婆さんが病気で長いこと寝よってそこに古い猫を飼うとった。そいたら、その古い猫を飼うとった。そいたら、その古い猫又がお婆さんをとって食べて、そのかわりに昼はお婆さんの寝座で寝よって、夜さが来たらお宮さん行て相撲とるんやと。
 そいでしたら、猫同士が言うことにや、
「おまえ、晩ばっかし来んと昼も相撲とろうぜ」ったら、
「おら、昼はどこそこのお婆さんをとって食うて、そのかわりに寝よらないかんけに来られんのや」言うてしたら、ちょうどそこでお宮さんで乞食が寝よってからにそれを聞いたんやと。
 それを聞いてからに、その分限者(ルビ ぐげんしゃ)の家へ行てからに泊まらしてくれ言うてしたら、
「うちには、その、三年もあとから病気で寝よるお婆さんがおるけに泊まらしてあげたいけど泊まらせん」と言うてしたら、
「それは、お婆さんでない。猫の化けもんじゃ」
「そんなことない。うちのお婆さんが寝よるんじゃ」
「ほんだら今晩泊まらしてくれ。その正体をあらわす」と言うて、ほいで泊まらしてもろうたそう

―244―

な。そいで、みんなねぶってしもうたとそのお婆さんは思うて、さっと起きて出て行たそうな。そいで、その乞食は寝座を見てしたら、そのお婆さんはおらなんだん。
 そのお婆さんは、昼は何が欲しいかが欲しいと言うて、みんなにあれやこれやしてもろうて食べて寝よったんやて。そいで、
「これ見てみい、お婆さんがおらんでないか」ってその乞食が言うたんやそうな。そいて、家の人はみんな驚いて、お婆さんを捜していたら縁の下にお婆さんの骨がようけあったという。さあけに(だから)猫を長いこと飼いよったら猫又になるんじゃというそうな。
 猫又は化けたら、どこかしらんでは手拭(ルビ てのごい)かぶってからに庭掃っきょったって。ほいで、だれっちゃ(誰れも)おらんのに庭掃っきょるいうて、ひょっと家の人がもどって戸を開けてしたら、すぐ竈(ルビ くど)のかたへあがってニャーオ、ニャーオと言うた。
 しゃあけに、猫はいつまでも飼うもんでないという。              (村瀬ナミ)

一五六 藁しべ長者
 昔はお正月の年取りに金毘羅(ルビ こんぴら)さんへようけ行て、喧嘩して勝ったらええんじゃいうて、負けたらいかんいうて、ようけ行っきゃったん。そんなら金毘羅さんに福さずけてもらうちゅうてみんな参

―245―

っておった。すると金毘羅さんの夢告げに「おまえは往にしに道のはたになんでもあったら拾うて往ね」って言うた。
 そいで、その人もどりよったら、 牛の頭が落っとんやと。 しゃけどなんでも落っとんがあったら、拾うて往ね言ったんやけに、牛の頭やけど拾うて往のかと言うて拾うてもどった。そしたらそれが千両箱であったちゅう。
 もう一人の人は、まあこれはお金はないし晩が来てからに困っていた。昔は金毘羅さんへは草鞋(ルビ わらじ)がけで歩いて行てもどりよったのに、その人はお金をなくし泊まることができないし、どうしようにと思いよってしたら、ひょっと一軒分限者(ルビ ぐげんしゃ)の家があったけに、行て「泊まらしてくれんか」言うてしたら、
「うちには泊まらしてあげたらええけど、病人があるんで泊まらしてあげれんのや」
「その病人はおれがなおしてあげるけに泊まらしてくれ」ってしたら、
「なおしてくれるんだったら泊まらしてあげる」というて泊まらしてしたら、さあこれなおすというてもなんちゃ薬持っとらんのやのに、まあこれ困ったこっちゃのに。そしたらひょっと思いついて、ああそうじゃ言うて、弁当行李(ルビ べんとうごうり)に御飯が乾きついたのがあるけに、それを薬じゃと言うてあげたらなおるやろうと思うて御飯をとって、
「これはありがたいお金毘羅さんのお薬じゃけに、きれいな水にうかして病人に飲ましてくれ」っ

―246―

て渡したんじゃ。それを信じたんじゃわの、その人がの。そこで飲ましてしたら、痛いわ痛いわ言よった病人がなおったん。そいたらまあ、これあんたのおかげでなおしてくれたん。まあ、えらい痛い言よったんがなおったけにまあご恩じゃと言うた。また、あくる日にもどしにはようけ小遣いのお金くれて、そいで帰ったという。
 もう一人の人には、
「おまえも往にしに何でも落っとら拾うて往ねよ」ってしたら、道ばたにカナブイブイが這いよるん。んで、何でも拾て往(ルビ い)ねちゅうたんやけに、これまあ拾うて往のうかと思うて、ほいで拾うてもどりよった。するとその分限者(ルビ ぐげんしゃ)の家へひょっと寄ってしたら、そこの坊っちゃんが、
「あのブイブイをもろうてくれ」ってしたら、
「その、うちのぼんがそのブイブイいるちゅうんじゃ。やってくれまへんか」
「これはあげまへんわ。これはおたしの宝じゃけにあげまへんわ」ってなんぼにもくれんのやと。子供はそのブイブイがいると言うてからにしようがないん。
「そんだらもうしようがないけに、あんた一生うちでなんじゃ、世話して飼い殺しにしてあげるけにそのブイブイをぼんにやってくれ」
「そうな、 そんだらあげますわ。 おたしの一生の宝じゃけど、もうおたしを飼い殺しにしてくれや。このブイブイあげますわ」ってそのブイブイをそのぼんさんにあげてしたら、そこで一生養の

―247―

うてくれたという。                              (村瀬ナミ)

一五七 信心なお婆さん
 お婆さんがいて、信心なお婆さんじゃったんや。だけど死んでしたら閻魔さんが、
「お婆さんよ、お婆さんよ、おまえは気の毒なけど、地獄行てもらわないかんのや」
「まあ、閻魔さんのような。おたし(私)やたいがい娑婆(ルビ しゃば)におった時にゃ、念仏婆さんと言われるくらい念仏をようけ(沢山)となえたのに、おたし地獄へ行くとてもってのほかじゃ」言うてしたら、そんなら閻魔さんが、
「そうか、そんなら何ぞ証拠持って来とるか」ったら、
「へえ、おたし証拠は持って来とります」って念仏のしるしを持って来とる。
「ほいたらどこへ持って来とる」ったら、
「ほんだら持って来ます」言うて、まあ袋に念仏いっぱいつめてからに大八車にいっぱい乗せて、
「これが証拠でござんす」て持って来てしたら、閻魔さんが言うことなら、
「おまえ、これ唐箕(ルビ とうみ)にかけてさびて(ごみを取り除いて)みい」言うてしたら、
「へい」と言うて鬼がさびてしたところが、まんで(全部)向こうへ飛んでしもうたんやと。そいで

―248―

したら、
「閻魔さん、閻魔さん、念仏持って来たけどこれから念仏で向こうへ飛んでしまいましたが」言うてしたら、
「そうか、そんだらもうしかたがない。お婆さんの、おまえが持って来た念仏はから念仏での、実がいっとらん。それで気の毒で可哀想だけど地獄い行てもらわないかん」と言うてしたら、
「そうでござんすか、 そんならしかたがない」 と言うてお婆さんが地獄行くと覚悟しとってしたら、その唐箕の下にたった一つだけ実のいった念仏が落ちとったんやて。そいたら、
「閻魔さん、閻魔さん、唐箕の下に一つ実のいった念仏が落ちとりましたが」言うと、
「おうそうか、一つでも実のいった念仏があったらおまえは極楽行きぞ」と言うて、地獄行かないかんと思うとったが、今度は極楽へやってくれたという。
 その一つの念仏はどうして実のいった念仏かと言うたら、念仏となえたら極楽へ行くと言うて、ただ一つもご法も聞かんと、ただもうなんまんだぶ、なんまんだぶ、なんまんだぶ、なんまんだぶと言うてもう、一つも阿弥陀さんのご苦労きかんで、ただ念仏言うたんではから念仏になるいう。そうじゃけにから念仏は身につかんのじゃという。                   (村瀬ナミ)

―249―

一五八 子供の運命
 ある所に子供が生まれた。易者に見てもらうと、その子は水におぼれるというのがわかった。その日が来たので、その日は水におぼれて死んではならないと思い、子供を外にも出さずに守っていた。ところが唐紙に水の絵をかいてあるのにもたれて死んだ。
 だから人間の因縁というものはそれからのがれることができないという。      (村瀬ナミ)

一五九 小人島
 小人島の人が池へ釣りに行ったところ大きな鯉がかかった。
「こりゃまあ持って往ぬのに重いから、ここでりょって(料理して)食べたらよかろう」と思って、りょうっていると、鯉のひとはねで飛ばされて、大人の国の瓜畑に落ちこんだ.小人はおなかがすいたから瓜の実をほぜって(ほじくって)食べた。 雨が降って来たので、 その瓜の中に入っていると、大人が来てその瓜を、
「これは虫が入っているから」と言って持って帰って切りにかかったら、中から人間が出て来た。

―250―

大人はびっくりして、
「どうしたんや」と聞くと、こうこういうわけやと、そのわけを話すと、
「おうそうか、そんならうちで仕事を手伝え」と言った。
「しかし、何も仕事の手伝いができない。小人だから」と言う。
 そこは傘屋であったので、
「それでは糊をたけ」と言って糊を炊いていた。外では傘をほしてあると雨が降って来た。そこで小人に、
「早よとりこめ」と言うと、
「大きいて持てない」と言うと、
「そんなら、頼むだけせ」というと、たたんでいると辻風が吹いて、飛ばされた。小人は大きな傘につかまって飛んで行った。それが琴平さんに飛んで行った。琴平さんでは、
「大きな傘がある。これはいい」といって、飴売りの日覆(ルビ お)いにええということで、今も飴売りの日覆いにして使っている。それがだんだん葬式に使うようになった。 
                                (香川町浅野 赤松亀太郎)

―251―

一六〇 子育て幽霊
 赤ちゃんが生まれて、それでおかあさんが死んだ。それでその子供に乳を飲まさないかんのにおかあさんが死んだ。
 ところが、毎晩毎晩、雨が降っても照っても、そのおかあさんが仰山(ルビ ぎょうせん)飴を買いに来よったそうな。それを子供にねぶらして大きょにしよったそうな。死んだおかあさんが幽霊になって買いに来よった。おかあさんは「おたしが生きとったら困らんのに」といって死んでからは幽霊になって、子のことを思うて、毎日銀座の町へ飴を買いに行っきょった。
 その店屋にも「まあ、あの人くらい毎日日にち買いに来る人ないのにどうしたんかいの」言うて不思議に思うとった。そしてその女の人の後をつけて見たところ墓場で消えた。そこで、掘って見るとそのおかあさんは死んでおったが、子供は生きていた。その子供に毎日飴を買いに来ていたことがあとになってわかった。                       (香川町浅野 山本クニ)

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一六一 トクよカツよ
 それは、四月か五月時分に畑へささぎとかを植える時分じゃ。その時分にその子がおらんようになった。そこでおかあさんが子供を捜した。その子供はトクとカツであった。そこで、
「トクよ、カツよ」言うてからによんだけれどももどってこななんだそうな。その親はしまいに鳥になった。男鳥になったそうな。                         (山本クニ)

一六二 蛇聟
 油山に油が出よった。そこでその油山にきれいな娘さんが住んでおった。そこへみんなが油を買いに行っていた。
 そしたら、きれいな男前(ルビ まい)の人が油を買いに来た。その男は蛇が化けたものだった。おじょろうさん(娘さん)はこんな人と一緒になれたらよかろうわいと思うておった。
 男は毎日日にち買いに行っきょったんやそうな。そうしたところその娘さんに子供がでけるようになったんやと。子供が生まれるようになったから、「まあ、子供がでけるようになって困るが」

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と思うた。そして相手の正体もわからなかった。お嬢さんも相手が蛇というのを知らない。
 それでしまいには男のほうに正体をあらわして、自分は蛇じゃというてぞろぞろと這(ルビ ほ)うたんやと。                                  (山本クニ)

一六三 塩売りと雷
 塩売りさんが夏塩を売りに来ていた。 それもまるいかごに塩を入れて、 それをかついで来ていた。
 そうしたところ大きな夕立がきた。そこで塩売りがある家に泊めてもらった。雷(ルビ かんなり)さんがゴロゴロと鳴るのが恐ろしいのでそこで泊まっていた。ところが夕立もやんだので、また塩を売りに出かけた。そして塩売りさんが言うことには、
「ゴロゴロ鳴るのは、五六の三十 バチバチいうのは、はっぱの六十四や」言うて行っきょったんや。そういって行っきょってしたら、その塩売りに雷があまりかかって死んだそうな。
 だから、くやく(冗談)は言うものではない。                   (山本クニ)

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一六四 長い話
 長い長い長い話は長崎のこわめしや。                      (山本クニ)

一六五 子供に意見
 ある所に、おかあさんとおとうさんが田んぼに行くんやそうな。すると子がゴソゴソと悪いことをしての。そこでその親が子供を納屋の天井へ放り込んだ。そこで近所の人に、
「うちの子供はの、天井へ放りあげてあるけにの、もうちょっとしたらの、おたし田んぼへ行くけにの、降してやっていた」言うて、頼んどいて行たんじゃ。
 そうしたところ隣の人が忘れたんや。そこで親が帰る途中、
「ありがとうござんした」
「あら、忘れたが」
「へぇ、忘れたんやったらわたしが戸を開けられるようにしてあるけにかんまん」
 それで帰って見ると蛇が首にもくいついて子が死んどったそうな。

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 だから、意見してもいいかげんな意見をせないかんという。            (山本クニ)

一六六 蛇聟入り
 娘の所へ毎晩毎晩男が通うて来よったそうな。来ておったが、どこの人やらわからんのが不思議でならなかった。そこである時女の方では糸の長いのを針に通して着物のすそにさして、針が抜けんようにしとった。そして、あとからその糸を伝って行ってみると、うらの山の淵へ逃げいんどったという。すると、それは蛇であったんじゃという。
 蛇は金物をえらい嫌うんじゃそうな。それからその男は来んようになった。
                                (香川町浅野 青木ヨシ子)

一六七 天道さん金の鎖
 とんとあっての、三人の子供を置いといておかあさんが使いに出た。ほいだら、
「だれが来ても確かめんうちは戸を開けな」と言うて出たのに、
「おかあさんもどって来たけに戸を開けていた」言うと娘が、

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「戸のふし穴から指出してみい」言うてしたら、指に毛がいっぱい生えとったけに、
「これは違う」言うて開けなんだ。
「うちのおかあさんはこなに毛の生えた手ではなかった」って言ってしたら、今度は根ぶか(葱)をこう指にかぶせて出してしたら、子供は自分のおかあさんじゃと言うて戸を開けたそうな。
 それで家の中に入って、おかあさんは一番こんまいぶんを抱いてねよったん。そしてその子供を食べよったん。ほんだらもう一人の子が、
「おかあさん、なん食べよるん」言うたら、
「こんこ食べよる」
「ちっとくれ」言うたら、片手をもいでくれたんや。すると、
「これは妹の手じゃ」言うて二人が外に出てお天道さんに、
「金(ルビ かね)の鎖を下げてくれえ」言うて下げてもろうてしたら、その鎖に二人がつながって天へ登って行った。その二人が兄弟(ルビ おとどい)星という星になったという話。
 それで山姥が天へ登ろうとして天道さんに頼んでしたら、くさった縄を下げてくれた。山姥はそれにつかまって登ろうとしたところ、途中で切れ落ちてからに、井戸の中に落ちこんで死んだという。                                   (青木ヨシ子)

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一六八 竹姫
 とんとあっての、昔お爺さんが毎日山の藪へ行て竹を切って、かご細工をしては売りしては売りしよった。 そうしたら竹の切り株からお姫さんが出て、 それを連れて帰り、その子を大きょにした。
 ほいたら十五になると、「もうわが月の世界へ往なないかん」と言った。お姫さんはお爺さんやお婆さんにほんどり(大変)世話になって大きょになったのに別れる時が来たというて泣いた。お爺さんとお婆さんはそれをはなさんといっておったけどしようがのうて、天人になって雲に乗って往(ルビ い)んだ。                                  (青木ヨシ子)

一六九 石堂丸の話
 昔、かるかや同心というおとうさんがあった。そのおとうさんは嫁さんを二人連れとったんやて。そしたら、本妻と妾とが仲がええんやと。あんまり仲がええけに不思議に思うて、おとうさんが外からもどって来てじっと戸のすきまから見よったんやと。ほいだら二人が将棋をさっしょんや

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と。仲良く勝ったの負けたのと言いながらしておったのに、髪の毛が蛇になって、こう向かいあわせになっとるのにもつれとったんやと。
 それを見てかるかや同心が怖(ルビ お)じてからに高野の山へ逃(ルビ ぬ)げて隠れたんやと。石堂丸という子が一人あるのに逃げたから子供とおかあさんはおとうさんをたずねてゆく。高野の山へかかると女人堂という所があるんやと。そこまで行たら、そこから上は女は絶対にあがれんの。女禁じの山じゃけにあがれんのや。
 すると石堂丸は、
「おかあさん、ここでおってくれ。父をたんねて行て来る」と言うて行った。ところが何十日たってももどらんのやと。
 するとかるかや同心と石堂丸との袂(ルビ たもと)がすれちごうた時にもつれおうたんやて。親子やったけに。石堂丸がたずねているとおとうさんはかるかや同心っておじゅっさんやて。石堂丸が父親をたずねてかるかや同心かと言うても、
「きのうそっても今同心。三年前そったも今同心じゃ」と言うて、すれちごうた時分に言うても言わんのじゃ。自分が子供を国に置いてあるということをの。
 そこでまた石堂丸は母の所へ行ったら、母親は待っておったけど、そこで病気になって死んどったんやと。何年もかかっておったけに。そいでもう頼るとこがないけに自分も出家しようと思うて

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髪を剃ってもろうた。ほいてまた高野の山へ登ってそのおじゅっさんに逢うた。そして一緒に暮らしたが親子ということを名のらんずくで一生を暮したという。けども、親子だったのでいつも大事にしておったそうな。                              (青木ヨシ子)