まえがき

 底本の書名 巡礼と遍路 
 入力者名  木内美知子・多氣千恵子
 校正者   平松伝造
 登録日   2006年2月23日
      

まえがき

  巡礼の風習は日本だけでなく外国にもあるという。他国の巡礼と日本のそれがどのよう
に異なっているかを知るためにも、日本の巡礼について私たちはまとまった知識を持ちた
いものである。
  さて、日本の巡礼といえば、西国三十三ケ所と四国八十八ケ所がもっとも名高い。しか
し、そのほかにも坂東、秩父、佐渡が島、小豆島、はては浄土宗の二十五箇寺参り、浄土
真宗の二十四峰など多くのものがあって、そのいずれもが日本人の信仰に深いかかわりを
持っている。
  この本では、西国三十三ケ所と四国八十八ケ所について述べてみた。その歴史はいずれ
も古く、現代のように一般の人々が巡礼する以前は、ある種の宗教人のみが山野を分けて
めぐっていたのである。そして、それには熊野信仰が深くかかわりあっていた。もちろん
西国の方には観音信仰が、四国には大師信仰がその背後にはあるのだが。
  巡礼といえば故郷を遠く離れた旅であり、旅はその語源の示すように夕べ(給べ)すな
わち食物を乞うことであった。それ故にこそ初期の巡礼は苦難に満ちたものであったろう。
おそらく現代の人は想像もつかぬような苦しい旅であったのだ。
  西国巡礼と四国遍路を比べると、どうしても前者は明るく、後者は暗い印象を私たちは
受ける。四国の方は口(ルビ くち)べらしや業病のために廻国する者が少なくなかったか
らである。ホスピタリティがよかったためにこうした巡礼者が四国に多かったことも考え
られる。
  この本では各霊場に関する縁起や説話の類をできるだけ多く載せた。こうしたものを通
じてもその起源や巡礼の諸相がよくわかると思ったからである。
  一冊にまとめてみると、不充分な点がまことに多い。今後も研究に精進したいものであ
る。
  なお、執筆にあたっては、先学のご指導を得た。それらの参考文献は末尾に記載させて
いただいた。厚く御礼を申し述べる。
  本書を上梓するにあたっては三省堂の田中志保子さんにたいそうお世話になった。御礼
を申し上げたい。
  昭和五十四年一月
  武 田  明

(#図版が入る)四国遍路地図
(#図版が入る)西国巡礼地図